青春と読書

               ■□■ 本を読む ■□■

 林大地著
 『見習いドクター、患者に学ぶ――ロンドン医学校の日々』


 林先生に診てもらいたい!
                                   清野由美

「インフォームド・コンセント」は、日本の臨床現場でも、ずいぶん定着してきたとは思う。診察の際に、病状、治療法、薬の作用を分かりやすく説明してくれるお医者さんの数は、ひと昔前と比べて格段に増えた。それでも、患者と話が噛み合わないお医者さんは、結構いたりする。
「耳鳴りがするんですけど」「いや、検査で異状はありません」「でも、耳が鳴っているんですけど」「エックス線でも問題ありません」「でも……」「だったら薬を出しましょう」というようなやり取りは、いまだひんぱんにある。
 病気の原因を科学的に探り、解決することは、もちろん大切だが、患者が第一に欲しているのは、「それはつらいですね。でも、大丈夫ですよ」と、医師側から共感され、安心させてもらうこと。このひと言で、ころっと回復することだって多い。
 日本の医療教育も、今後、その方向に向かうのだろうが、ひと足先に「患者中心の医療教育」を実践しているのがイギリスだ。著者は二〇〇四年に、そのイギリスで医学校を卒業した数少ない日本人の一人。長い学術的な伝統の上に、時代に即したヒューマニズムを重ねていこうとする、西洋医学最良の試みが、本書には若く、明るい筆致で描き出される。
 その青春記を彩るのが、ユニークな教授や友人、患者たちだ。それぞれの立場ごとに、きちんと意見を持ち、相手を尊重しながら自らの役割を果たしていく姿の基本にあるのは、著者が学んだ聖トーマス医学校の合言葉、「病気を診ずして患者を診よ」。これ、いい言葉だなあ。病気ばかり診ていると、げんなりしそうだけど、患者を診ていれば、飽きることがないではないか。
 著者はまだ三〇歳を過ぎたばかり。英国医師免許を取得した後、日本医師国家試験にも合格し、現在、東京で臨床研修医として働いている。いつかこんな先生に診てもらえるといいな。病院に行くのが、ちょっと楽しみになってきた。

                (きよの・ゆみ/ジャーナリスト)



『見習いドクター、患者に学ぶ
――ロンドン医学校の日々』

集英社刊 2008年2月15日発売
定価:735円(税込)




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