青春と読書
只今、悩み中

金原 対談は初めてなので、よろしくお願いします。
花村 うん。でも、私は対談相手を泣かすので有名なんだよ(笑)。
金原 えーっ。
花村 一時期、AV女優なんかを主体にした連載対談をしていたことがあって、家族のこととかいろいろ突っ込んで聞いていくと、なんか泣いちゃうんだよね。
金原 大丈夫かなあ(笑)。
花村 金原さんは、「蛇にピアス」ですばる文学賞を受賞したわけだけど、そもそも小説を書こうと思ったきっかけというのは?
金原 元々、小説を読むのが好きだったんです。
花村 どういった傾向のものを。
金原 あまり今と変わってなくて、人間の本質といったら大袈裟なんですけど……。
花村 変に浮ついたものじゃなくてね。その頃に面白いと思った具体的な作品名とかは。
金原 村上龍さんの『コインロッカー・ベイビーズ』とか、花村さんの『笑う山崎』もすごい好きで、花村さんの本を読み始めたのは中学校から高校にかけての頃ですね。
花村 その頃もう、小説を書いてたわけ?
金原 最初に書いたのは小学生です。
花村 えっ、すごい早熟だな。
金原 もちろん作文みたいなものですけど。一時期アメリカに1年くらい住んでいて、英語が話せないものだから本ばかり読んでいて、その頃に書き始めたんです。
花村 どんなもの書いたか覚えている?
金原 どんなの書いてたかなあ。あまり覚えてないですね。
花村 本気で小説を書こうと思ったのは。
金原 中学校の3年くらいですかね。
花村 ちゃんと自意識が固まってきたくらいだ。その頃はどんなものを。
金原 結構短いものばかりで。原稿用紙5、6枚とか。なんか読み返すと何書いてるんだろうって。
花村 あんまり具体性のない。
金原 ええ、抽象的な感じですね。で、すごく暗いんですよ、今読むと。
花村 それで今度の受賞作になるわけだけど、あれを書こうとしたきっかけは。
金原 一番最初にスプリットタンを見たとき、だいショックを受けて。自分でもやってみたいなと。
花村 思ったの?
金原 はい(笑)。やってみようとは思ったんですけど、なかなか勇気が出なくて。なんで自分はやりたいのかとか、やってる人はどういうことを考えているのかとか。もしかして意味なんかないのかもしれない、意味がないんだったら何があるんだろう……って。それで書いてみたら、なんとなく動き出していったんです。
花村 そうか、やりたいと思ったのか。俺なんか、ああいったものを見ると、なんか知らないけど笑っちゃうんだよね。それに、自分でやるのは嫌だけど、誰かにやる分にはやぶさかではない(笑)。相手がOKなら、喜んで植木ばさみでプッチンなんてやりたいじゃん。
 梶井基次郎の小説で、切符を切る鋏で猫の耳に穴を空けたいっていうのがあるんだけど、ああいうの、やってみたいってとこあるんだよな(笑)。
金原 私、今刺青を入れたいなと思ってるんです。
花村 刺青ねえ。俺は15、6の頃、神奈川のとある刺青の彫り師のところへずっと出入りしてたことがあってね。刺青したくてしょうがなかったんだけど、その頃は未成年者に刺青を彫ると傷害で捕まっちゃうというので、いくら頼んでも彫ってもらえなかったけどね。でも見てるだけで面白かった。ちょうど機械彫りが出始めの頃で。
金原 機械彫りって、なんか痛そうですよね。
花村 機械は痛いぞ。その代わり早い。手彫りは機械に比べて痛くないけど、時間がかかる。どっちをとるかなんだ。もちがいいのは絶対手彫りだよ、針を深く入れるから。
金原 色が褪せないんですね。
花村 機械は安全を期して、あまり深く針が入らないようになっている。針が皮下の組織まで深くいっちゃうとだめだし、上っ面だけなぞってると1年くらいで色褪せて、ちょっと日に焼けただけでだめになる。うまい人の手彫りだとそこがいい具合にいくわけ。
金原 でも刺青って綺麗ですよね。なんか魅せられます。
花村 ワンポイントはやめてよ。
金原 入れるんなら大きく入れたいですよね。
花村 でも肝臓とか悪くするよ。熱い風呂には入れないし、海には行けないし、制限だらけになっちゃうぞ。
金原 考えちゃいますよね、そこら辺は。そんなこんなで悩み中です。
花村 それに、女の肌は脂が乗りすぎて顔料をはじくから彫り師は嫌う。やりづらいんだって。やっぱり、思春期過ぎた肌の綺麗な男が一番いいそうだね。

命を実感する


花村 今度の小説は、自分がスプリットタンをやりたくてもできないことに対する代償行為みたいなところがあるのかな。
金原 そういうのもあるかもしれません。刺青もそうですけど、やっぱりある種の自傷行為でもあるのかなあと思って。もちろん、実際にやっている人たちにしてみたらそうではないのかもしれないですけど。
花村 手首とか切ったことあるんだっけ。
金原 昔はけっこう。
花村 俺はね、自分には向かわないんだよ。
金原 周りに?
花村 外に向かう。俺の書いたものを気に入ってくれているようだし、あなたと俺とは、比較的似たような部分がある気がするんだけど、そのあたりが違うな。俺は自分が大事だから、自分じゃなくて他人を傷つけちゃうわけ。
金原 私も自分は大好きなんですけど。
花村 自分が好きすぎて、自分に向かっているのかな。
金原 そうかもしれないですね。
花村 この人は自己愛がすごく強いなあって、読んでて感じた。その年頃特有の自己愛なのか、それとも本質的に自分が好きなのか。
金原 本質的なものだと思います。
花村 俺もその年頃には自分が大好きだったけどさ。今から考えて、なんで手首切ったんだと思う?
金原 うーん……。
花村 本気で死ぬ気ではなかった? それとも死ぬ気でやってた?
金原 死んでもいいかなあ、とは思ってました。
花村 それは抽象的な死ではなくて、物理的に自分を終わらせようと。
金原 どうだったんだろう。今から考えるとやっぱり抽象的だったような気がします。
花村 それはいくつぐらい?
金原 中学の1、2年くらいですね。
花村 それは思春期の性的なものの芽生えと関係があるのかな。
金原 ……そうかもしれません。
花村 その頃って、なんかうっとうしいものが芽生えてくるじゃない。俺、いつも思うもの、ポコチンさえなければずいぶん楽に生きてけるだろうなって(笑)
金原 やっぱり切り離せない所はあると思います。
花村 俺が13、4の頃は、施設に入れられていて、水曜日と土曜日が農作業の日で、豚とか牛とか鶏をつぶすんだけど、その解体を手伝わされるんだね。それで、冬の寒い日に豚のお腹を割くと、腸がドワッと流れてきて湯気がすごい勢いで立ち昇る。本当に命が湯気になって逃げていく感じなんだ。
 もちろん、施設の中の環境もあったろうとは思うけど、俺が自殺とか考えなかったのは、そういうふうに殺す側に回っていたからなんだと思う。餌をやったりすると、豚だって牛だって馴れるわけ。でもある時期が来るとそれをつぶす。その辺を子どもながらに考えるんだな。ああ、俺はさんざん可愛がった牛を食っちゃうのかって。
 あなたの場合は、命というものを実感するのは自分しかないから自分に向かったのかもしれないね。俺なんか喧嘩ばかりだったけど、あなた、殴り合いとか喧嘩とかはしないで、他人とは、軋轢がないようにうまくやっていく方でしょう。
金原 そうですね。ただ、家族とはうまく距離がとれませんでした。学校にも行ってなかったので。
花村 学校に行けなくなったのはいつ?
金原 小学校の3、4年くらいからです。その前からしょっちゅう休んだりしてたんですけど。
花村 学校へ行くのがかったるくなったとか、行っても意味ないとか。
金原 もっと意味があることが他にあるんじゃないかと考えちゃったり。
花村 生意気なガキだね(笑)。
金原 そうですよねえ(笑)。それでずうっとサボって。中学もほとんど行かずで。
花村 で、高校中退か。
金原 高校には半年くらい行ったんですけど、でも結局サボっちゃって。昼休みにご飯食べに行って、そのまま遊びに行っちゃうっていう感じで、留年するなとわかってからもう行かなくなりました。
花村 みんながバカに見える?
金原 いえ、逆に普通に学校に行ってるだけですごいなと思いましたね。私にできないものができてるということで。
花村 学校に行かずに、何してたの。
金原 遊んでました。
花村 よし。本読んでたなんていったら、ぶっ飛ばしてやろうと思ったけど(笑)。ふらふらどこかへ遊びに行ってたわけだ。
金原 地元の府中とか新宿とかで、友だちや彼氏と。遊ぶといっても、そんなに悪いことはしてませんよ(笑)。みんなで集まって飲みに行ったりカラオケに行ったりとか。
花村 学校に行かないことについて、ご両親は?
金原 父はあんまり構わないんですよ、学校にも行かなくていいっていってたし。母親は逆で、厳しかったですね。
 中学卒業してからずっと家に帰らずに、他のところで生活してたんですけど、やっぱり家庭の中の干渉から逃げたいというところがあったんだと思います。
花村 俺が子どもの頃には、手首を切って本当に死んじゃう人も例外的にはいたけど、そうやって幾筋も傷が残るというのはなかった。飢えなくなった辛さというのが出てきたのかもしれないな。俺らの頃は、貧しい人は本当に貧しくて、今とはちょっと様子が違っていた。その代わり、未来にはなんとなく夢を持てるような雰囲気だったけどね。今はどうなんだろう。幻想の余地がなくてなんだこんなもんかと思っちゃうのかな。

観察者はニュートラルに


花村 「蛇にピアス」でちょっと気になったのは、読者にうまく楽しんでもらうという思いがラストでちょっと空回りしちゃったところだね。ある程度力があって、あるレベルを超えている場合には、無理して話を落とさなくていい。落ちはいらない。金原さんはそれができるタイプだと思うんだな。
 文章にパワーがなかったり、リズムを作れなかったり、登場する人物がちゃちでキャラクターとして立っていないのしか書けない人はストーリーにすがるしかない。どっちがいい悪いじゃないんだけど、資質としてはあるところでポンと放りだしてもそれが通用するタイプとそうじゃないタイプがある。あなたは明らかに前の方のタイプだから、あまり終わりを意識したり、綺麗にまとめようとか収束させようとかしないで、ほっぽり出しちゃっていいんだよ。それでわかんない奴には、お前がバカだといえばいいんだから(笑)。
 だから、最後、彫り師が恋人を殺したんじゃないかと主人公が思い悩む場面で放り出してもよかった。読む方は、これどうなってんだろって気になる。
金原 そっちの方が残りますよね。どうしても、落とした方がいいのかなって考えちゃうんです。
花村 その気持ち、すごくわかる。でも、大多数の人にわかってもらおうと思わずに、わかる人だけでいいじゃん。
金原 どうしても、みんなに読んでもらえるのがいい本というような感覚があるじゃないですか。
花村 もちろん、ある程度は売れないとまずいと思うよ。その線引きをどこでするかだよな。毎回出すたびに、20万とか30万売れるんならいいけど、そうはいかないわけよ。俺は、正直3万くらいでいいやと思ってるんだけど、それが1万くらいしか売れないとなると、これはまずいなあって(笑)。
金原 私も、最初は自分が満足できればいいやってずっと思ってたんです。でも、やっぱり、みんなに少しでもいいと思ってもらえるのがいいのかなあと。それでちょっと書いてるものが変わってきちゃってるかなあという感じもしてるんですけど。
花村 読者を念頭に置いて書くというのは正しい。これは自分の恥みたいな話だけど、レオナルド・ダ・ヴィンチの話を内緒で書き始めたんだ。レオナルドの弟子に盗癖のある子がいて、レオナルドは、その弟子がお金を盗んでいるのを物陰から見ている。今日はこれだけ盗んだって日記に付けて、別に咎めない。金額だけが残っているわけ(笑)。
 それが面白くて、発表する気もなしに自分勝手に書き出したんだ。ところが、これが締まらない。読者を意識しないから、散漫になる。裸になるときだって、誰かに見られてるという思いがあるからポーズをとるわけだよ。ひとりでだらけて風呂に入っているときはそんなの意識しないだろ。そういう状態だね。
金原 他人の目をまったく意識しない。
花村 やっぱり誰かに見られてると思うから肌の張りも違う。あ、これは商品にならねえやと思って、50枚くらいで止まってる。誰かに見られているということが表現を磨くし、無駄も省くんだな。
金原 そういえば、自分の思いがこもっているとこだけ長々と書いたりしますよね。
花村 そこがうざいんだよな(笑)。
金原 そこをなかなかうまく省けないんですよね。私、『風転』(集英社文庫)を読んですごいと思ったんですけど、視点がいろいろと変わるじゃないですか、若い女の子とかが出てきたり。それがまったく無駄がなくて、すごい自然に書かれていて、どうしてこんなに女の子の気持ちがわかるんだろうって。
花村 俺のデビュー作が女の一人称で書いたものだしね。今はあまり一人称で書かなくなったけど、でも気持ち悪いよな。女になって、「あっ、生理が始まっちゃった」なんて(笑)。
金原 でもすごい自然ですよね。どうしてですか。
花村 たぶん、俺、女大好きだからじゃない(笑)。
 あなたのこの小説では、暴力的なことに関して結構ひりひりしていい感じだったけど。個人的には主義があるとか。
金原 主義?
花村 マゾヒズムとか。
金原 どちらかといえばMかなというくらいですかね。
花村 あれは作品の中だけ?
金原 そうですね。
花村 だろうね。しゃべってるとすごくニュートラルだし、客観性がある。
金原 そうですか?
花村 それって、すごい大事なことなんだよ。左右に極端に振れるのはすごい楽なんだから。あなたはニュートラルだから、刺青とか入れたいんだよ。俺もすごくニュートラルだからすごい変な方に振れたがる。もし、俺が女をうまく書けてるとしたら、ニュートラルだからなんだね。男性原理だけで動くわけじゃなくて、女性原理の方にも片足突っ込んでいる。ニュートラルじゃないといい観察者になれない。そういう意味では、あなたは実際に刺青する方じゃないんだよ、見る人なんだよ。だから余計なことをしなくていいんだよ、その代わり徹底的に見る。これも大変だぞ。
金原 ええ、そう思います。
花村 ところで、次作は?
金原 すでに書き始めてるんですけど。ロリコンの男と暮らしてる女の子が主人公で。
花村 俺はロリはわかんねえんだよ。性的にもっとも逸脱しそうなのは、サドで、次にホモだな。自分にそういう傾向があるのはわかってる。でもロリは、わかんない。
金原 ですよねえ。私も理解しがたい。それでどんなんだろうと思って書き始めたんです。
花村 よくわかんないけど書いちゃうというのは、天性のものなんだろうね。そこは大事にした方がいいね。
 ともかくさ、書く雑誌とかあまり選ばずにどんどん書いた方がいい。あなたにはエンターテインメント系の雑誌にも書いて欲しいな。どんどん書いて、どんどん金稼げよ。
金原 はい、頑張ります(笑)。


【花村萬月さん】

はなむら・まんげつ●作家。
1955年東京都生まれ。
’89年『ゴッド・ブレイス物語』で第2回小説すばる新人賞受賞。著書に『皆月』(吉川英治文学新人賞)『ゲルマニウムの夜』(芥川賞)『虹列車・雛列車』『百万遍 青の時代』等。
【金原ひとみさん】

かねはら・ひとみ●作家。
東京都生まれ。
スプリットタンと呼ばれる蛇のような二股の舌と、龍と麒麟の刺青を施そうとする主人公――身体改造に魅せられた若者たちの日常を描いた「蛇にピアス」で、第27回すばる文学賞、第130回芥川賞を受賞。

【花村萬月さんの本】

『虹列車・雛列車』
単行本
集英社刊
好評発売中
定価:本体1400円+税

  【金原ひとみさんの本】

『蛇にピアス』
単行本
集英社刊
※第130回芥川賞受賞作
好評発売中
定価:本体1200円+税




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