青春と読書
――ゲストの顔ぶれ――
阿木燿子 岡部まり 柴門ふみ 斉藤慶子 高樹のぶ子
室井佑月 阿川佐和子 俵 万智 三田佳子 唯川 恵
檀 ふみ 中村うさぎ 安藤優子 星野知子 桐野夏生
市毛良枝 森下涼子 細川ふみえ 東ちづる 山田詠美
吉行和子 藤村志保 (登場順)    

『愛に勝つ1・2・3(アン・ドウ・トワ)――輝く女性たちに聞いた恋のひみつ・愛のかたち』は、直木賞作家の藤田宜永さんがホストとして、三田佳子さん、阿川佐和子さん、安藤優子さんら、各界で活躍する22人の女性をゲストに迎えての対談をまとめたものです。藤田さんの巧みな話術に誘われてか、それぞれの恋愛に関する思わぬ本音も語られるこの本は、リレー・トークセッション形式の恋愛論でもあります。恋や愛について考えるヒント満載です。


――ここに登場する女性の方々の人選は、藤田さんご自身がなさったのですか。


 いや、最初はこの対談を連載した「遊歩人」の編集部の人が選んで、ぼくはその人に関する資料をもらって対談に臨むという形だったんですが、回が進むうちに、みんなであの人はどうだろうかという話をして決めていくという感じで、ぼくから特別にあの人を呼んでくださいということはなかったですね。
 ただ、最後の藤村志保さんとは長いお付き合いだし旦那さんとも知り合いですから、トリは藤村さんにお願いしたいと、それだけは決めていました。
 作家の方たちは別として、ほとんどの方とは初対面でしたから、たとえば何年にどういう恋の噂が立って、それに対してどういうコメントを残しているかとか、一応資料を頭に入れておくんです。でも、相手は大抵忘れていて、「エッ、私そんなこといったっけ」「だって、この雑誌の中でこう書いてありますよ」って、なんか検察庁の取り調べみたいでね(笑)。

――逆に、藤田さんご自身がさらけ出されているようなところもあるようですが。

 というより、こっちが初めに札を出していかないと、相手は話してくれない。ぼくはジャーナリストじゃないから、別にプライバシーを覗こうという気はまったくないんだけど、表層だけでは面白くないから、少しでも深いところに到達させようと、まずはこちらをさらけ出す。でも、それは無理しているわけじゃなくて、ぼくはもともとおしゃべりだから、放っておけばどんどんさらけ出していくんですけどね。
 ただ、ある編集者が、同じおしゃべりでも藤田さんのおしゃべりは人を喋らせるおしゃべりだというんですよ。ぼくがバンバン喋るものだから、「ちょっと待て、私だっていいたいことがある」と。そうすると、エッ、そんなことまで話していいんですか、ということまで話してくれる。ですから、今回のみなさんも、素とまではいかないにしてもざっくばらんに話してくれました。裃を着た対談ではなくて、割とカジュアルな感じなものになったと思います。

――ホストとして一番気を遣ったことは?


 対談というのは相手があってのことで、小説を書くのとはまったく違いますから、最初のうちは、喋りすぎないように注意してたんです。余計なことをいって失礼なことがあってはいけない、と。でも一方で、あまり引きすぎて聞き役に徹するんじゃ面白くない。その辺の間合いというか、匙加減に結構気を遣いましたね。
 でも、途中からはあまり気にせず、どんどん喋って、両方がかぶるくらいでちょうどいいだろうと思うようになったんですね。だから、全体として、ちょっとぼくが喋りすぎかなというところもあるんだけれど、それはさっきもいったように、相手から引き出すためのおしゃべりであって、「俺ってさ」というジコチューでやってるわけじゃない。こっちが先に喋ることで、相手が喋りやすい環境をつくる。これは対談に限らず、男女の場合でも大事なことなんですね。
 たとえば夫婦でも、旦那がよく喋るとあと出しじゃんけんのように女房も乗ってくる。あと出しだから、結局は男が負けるんですけど、でもこっちが先にチョキとか出さないと、相手はグーを出すわけにはいかない。そういう形がたぶん男女の関係にはあると思う。
 やはり、ホストは女性を構ってあげなきゃいけないんですよ。乗せるというと言葉は悪いけど、ともかく楽しんでいただく。まあ、基本的に女の人は構ってもらいたい生き物ですから、話題の中心を女性にしておけば対話もスムーズにいく。だから、逆にホステスがゲストに男を呼ぶ場合には、中心は今度はホステスのほうになる。要するに、どちらにしても、男はあくまでも脇役なんです。ホストの秘訣はそこですね。ゲストに呼ばれたときでも、ホステスさんの顔色を見ながら、つねに気を遣いながら話をしていく。そうすれば女の子に人気が出る。人気があるからと言って本当にモテたことにはならないけど、その場は愉しめると思います(笑)。

――今回、改めてまとめてお読みになっていかがですか。


 読み返すと、すごい懐かしいんですよ。自分でいうのもヘンなんだけど、読んでいてすごく面白い。1つ1つの対談が愛おしくてね。
 みなさん、年齢もキャラクターもさまざまですけど、共通しているのは、ひと言でいえばみんな「強い」ということですね。「私よ」という自我みたいなものが感じられる。そういう点では、男にとっては非常に手強い方々ではありましたね。でも、強いというのは全然悪いことじゃない。日本人の男って、自分なりの意見をいう女を嫌う傾向があるけれども、でも意見をいう女の人っていいじゃないですか。意見をいうというのは、強いんだけど、自分を出してくれるわけだから、逆に隙があるというか、攻め所があるというかね。
 だって、自分の意見をいわずに、なんでもこちらのいうことを聞く「イエスウーマン」のほうが怖いでしょ。何を考えてるかわからないし、なんか裏があるんじゃないかとか、そっちのほうがずっと警戒心を持つ。今回のゲストのみなさんのような、各界で一家を成している人は、強くて鋭いんだけど、繊細さも併せ持っている。ただ強靭なだけじゃない。そこがやっぱり一流なんですよね。

――この本をどういう人に読んでもらいたいですか。

 この本は、女の人が読むととても面白いと思います。というのは、22人の非常に個性的な方々がそれぞれの恋愛観を話してくれていますから、そういう意味ではある種の恋愛講座みたいな感じにもなっているんですね。ぼくもみなさんを相手に自分の恋愛観をさらしているわけですが、それに対する反応がやっぱり少しずつみんな違う。たとえば、男はよく「君が一番だよ」と女の人にいいますね。阿川佐和子さんは、それは二番、三番がいてのことで、そういう比較する考えは駄目だ、あくまでも絶対的に自分を好きでいてほしいといったんですね。その意見に対して、俵万智さんは「二番、三番がいたほうが、価値ある一番」だと思う、と素直に自分の感想を述べている。
 恋愛観って別に善悪や優劣じゃなくて、世界観の違いなわけでしょう。だから一人ひとり指紋が違うように恋愛観もそれぞれ違う。その違いがすごくよく出ているし、みなさん、割と真髄を衝いた発言をなさっている。これだけの女性たちの恋愛観を一度に見られるというのは、非常に参考になると思いますよ。誰が正しいとかいうことではないので、「私は違うわね」と思って読んでくださっても全然かまわないし、「あっ、こういう思いで男の人なり夫なりと付き合ってるんだな」と思っていただければ、それだけでも楽しめるんじゃないかと思います。

――最後に、現在「小説すばる」に連載中の長編「リミックス」について。


 これまで、ぼくの恋愛小説というと、主人公のトラウマを軸にしたものが主だったんですけど、そのいわば集大成が『恋しい女』で、それを書き終えて――まだ積み残しているのはあるけれども――今度はもっとドーンと激しくぶつかる恋を書いてみたい。それで書き始めたのが「リミックス」です。
 19世紀の恋愛小説が、おおらかに恋愛を謳歌するという形であったのに対して、20世紀の恋愛小説は、恋愛は不可能であるという出口なしの形に陥ってしまったところがある。そこでこの21世紀には、不可能か可能かは別にして、人は恋をするものだという原点に戻って、超気ままなラッパー少女と40代のDJ男に激しい恋のバトルをやらせようかと思ったんですね。
 そうそう。この間、「ダ・ヴィンチ」で、2004年の「恋愛小説TOP30」という、読者の選んだランキングが発表されていて、そこにぼくの『恋しい女』が入っていたんです。あの雑誌の読者層は若いですから、取り上げられている作家のほとんどは、20代、30代が中心で、たしか50代で入っているのは村上春樹さんとぼくだけで、若い読者があの作品を認めてくれたのはすごく嬉しかった。
 この「リミックス」もすごくわかりやすい恋の話ですから、是非若い人に読んでもらいたいですね。



【藤田宜永さんの本】

『愛に勝つ1・2・3――輝く女性たちに聞いた恋のひみつ・愛のかたち』
単行本
集英社刊
2月25日発売
定価:1,890円(税込)


プロフィール

ふじた・よしなが●作家。
1950年福井県生まれ。
2001年『愛の領分』で直木賞受賞。著書に『鋼鉄の騎士』『巴里からの遺言』『求愛』『愛さずにはいられない』『左腕の猫』『恋しい女』等。


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