青春と読書
 ここ数年、自殺のニュースが後を絶たない。誰だって生きていれば、一度や二度死んでしまいたいと思う苦難にぶち当たる。がしかし、死を考えた時点で思い止まることがほとんどではなかろうか。
 では、死んでしまった人たちは、なぜ思い止まれなかったのであろうか。
 自殺を思い止まるきっかけにはまず、自殺に伴う苦しみへの恐怖があるだろう。見苦しい死に方は嫌だとか、苦しいのは嫌だという気持ちで現実に引き戻される。しかし十数年前に話題になった『完全自殺マニュアル』なる本は、いかに楽に死ねるか、どうしたら見苦しくないかが、ご親切にも図版まで用いて教えてくれる。このような本も「コンビニエンスな死」をあおり立ててはいないか。
 またインターネットには自殺したい人が集まるサイトがある。同じ思いに誘われる同志の存在が、死への逃避を心強いものにしてくれるようだ。以前テレビである専門家がコメントしていた。「集団自殺は共依存によることが多い。孤独な自殺志願者が、誰かのために共に死んであげることで自分の命の価値を見出している」と。悲しい偽りの博愛精神にこじつけている、というわけである。
 私も「死にたい」という相談を数多く受けてきた。理由は千差万別でも、みな異口同音に語ることは「自分には生きる価値が無い」であった。ではいったい「生きる価値」とは何なのであろう。
 現代に生きる人の多くは、目に見える価値だけを価値とする「物質主義的価値観」に毒されている。学歴や名誉にあずかること、財産や美貌などがあってこそ、生きる意義があると信じている。そしてその価値を得られなかったり、失ったり、躓いて思うようにいかないと、とたんに生きる価値を見失い、いとも簡単に命をリセットしてしまおうとする。現代人は「たまごっち」などのゲームに感化されすぎて、気に入らないとすぐにリセットしてしまう「リセット症候群」に毒されているのだ。それが最近の子どもたちによる残虐な事件にも影響しているように思う。ただでさえ最近は、死んでも人は蘇ると信じている子が多いと聞くから、私はその毒性を心配して止まない。
 一方、精神世界の信奉者が増えている昨今、死とは無になることではない、新たなる出発であるという認識が、自殺を助長しているのではないかという心配の声があがっている。しかし霊的世界を垣間見てきた私は、死はたしかに無に帰すことでないにしろ、自殺の結果は絶対に安らかでもなく、新たなる出発といった前向きなことでもないと断言する。
 信じる信じないは読む人の自由だが、私が視てきた自殺者の末は、現世における苦悶からまったくもって脱していない。いつまでも苦しみのままにフリーズしているのが事実である。そして自殺という逃避の道を選んだことへの長い後悔の時を経て、再び現世に生まれ、同じ苦難を味わい、自らが乗り越えられなかった壁を今度こそ越えようと、自らの意志で挑むことになる。だからこそ私は、お節介ながらも自殺志願者に警告するのだ。そのような繰り返しをするくらいなら、いかに惨めな思いをしようとも、いっそ生き抜いた方が良いと。
 そして現世は移り行く。運命は努力により必ずや変わるのだ。諦めずに生き抜けば至福の時を得られるものだ。明けない夜がないのと同じであり、すべては考え方なのである。私流に言えば、人生の意味を見出せれば良いのだ。
 生きる意味とは何か。それは人生の旅を縦横無尽に楽しむことだ。たましいは存在する。そして死後の世界はある。私はそう天命に誓って断言する。人生は旅なのである。霊的世界からこの現世に生まれ出で、この物質界にてさまざまな経験と感動の名所を見て、よりいっそうたましいを成長させるのだ。
 高次の霊的世界では何事も自由であり、すべてが思いのままである。しかしだからこそ感動が出来づらい。物質界である現世は不自由で、何事もままならない。しかしだからこそ努力をして乗り越えた時に、感動がある。達成感がある。その経験と感動を得るために、この現世に生まれてきたのだ。
 しかし現世が物質界ゆえに人は間違いを起こしてしまう。物質的な名誉にあずかることが成功者だと勘違いするのだ。地上のいかなる宝も、霊的世界には持って帰れない。たましいの宝はすべての経験と感動なのだ。物質は失うことがあるが、心に刻まれた経験と感動は何人も奪えない。たとえ人目につかず地味に生きたとしても、その経験と感動は自分だけの宝なのである。だからこそ「価値があるから生きるのではなく、生き抜くことに価値がある」のである。
 人は死を思う時、家族や最愛なる人を思って止まるもの。しかし最近はいとも簡単に死にいってしまう。人の価値までもが物質的な視点ではかられがちな今の時代、家族の絆もそれだけ頼りないのだろう。「親の望む優秀な子でなくてごめんなさい」と言って死んだ子もいる。代償を求めないのが真の親の愛なのに。


【江原啓之さんの本】

『いのちが危ない!スピリチュアル・カウンセラーからの提言』
単行本
集英社刊
4月26日発売
定価:945円(税込)


プロフィール

えはら・ひろゆき●スピリチュアル・カウンセラー。
1964年東京都生まれ。
著書に『愛のスピリチュアル・バイブル』『子どもが危ない!』『本当の幸せに出会うスピリチュアル処方箋』等。



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