青春と読書
二十一歳で右翼団体に入会し、愛国パンクバンドを結成した雨宮処凛(あまみやかりん)さん。その活動を追ったドキュメンタリー映画『新しい神様』(土屋豊監督、一九九九)で注目を浴び、現在は、プレカリアート(新自由主義の中で生活も職も心も不安定さに晒(さら)される人々)の支援活動を積極的に行い、幅広い分野で発言をしています。五月新刊の『雨宮処凛の闘争ダイアリー』は、雨宮さんの二〇〇七年一年間の活動記録です。
聞き手は、以前から雨宮さんの活動に注目していた重松清さん。新人類世代の重松さんとロスト・ジェネレーションの雨宮さん――どのような話が展開されるでしょうか。


●「のび太」が切り捨てられる時代

――雨宮さんはホリエモンと同世代ですよね。
雨宮 同じぐらいです。というより、いわゆるロスジェネで唯一新しい生き方のモデルを提示したのがホリエモンなんです。それが逮捕という終わり方をしてしまったので、そこでモデルが摘まれてしまったわけです。
――ちょうどぼくたちの世代、今の四十代半ばの世代のヤンキーにとって、矢沢永吉の成功体験は大きかったんです。『成りあがり』をむさぼるように読んで何かできるんじゃないかって。そういう物語は、世代世代に、絶対必要だと思うんですね。だから、堀江氏のパーソナルな問題は抜きにして、成功体験が否定されるというのは、ボディブローのように後から効いてくると思いますね。
 世代的にいうと、楽天の三木谷さんがぼくと同世代なんです。バブルの時代に二十代で、その恩恵をもろに受けている、いわゆる新人類世代です。だから、もしロスジェネたちが革命を起こしたら、敵として真っ先に血祭りにあげられるのはぼくらの世代だろうという感じがすごくあったんです。
雨宮 敵というか、うらやましい反面、絶対自分たちには経験できないだろうことを経験した世代という感じですね。自分たちもああなれるのかなと思った瞬間にバブルが崩壊してしまった。もし自分がバブルのときに社会に出ていたら楽に生きられて、政治とか考える必要がないので、こういう運動にかかわることはなかっただろうとは思います。だから、バブルを経験せずによかったと思う反面、自分と同世代の人で、四十代、五十代になれない人が結構いるんじゃないかという……。
――その年齢を迎えられない。
雨宮 多分その前に死んじゃう、という実感がすごく強くある。実際、その前の三十代の壁も厚くて、三十歳前後で自殺をした人が多かったんです、特にフリーターの人で。働けないことが原因で心が病んだり、家族や友人とうまくいかなくなったりとか。だから、次の四十代の壁はもっと高くなるだろうと思うと、恐ろしいですね。
――この本の中に、団塊の世代の人たちとの交流がありますが、団塊の世代は、三十代が「生きさせろ!」と訴えて、ネットワークをつくって運動しているのを、どんなふうに感じているんでしょう。
雨宮 このままでは生きられないので、生きさせろ、米よこせ、仕事よこせ、住むとこよこせみたいな運動をやっているというと、何となくばかにしたような反応がまずあります。自分の私利私欲より憲法九条の問題をやれとか。やっぱり、私たちがほんとうに生きられなくなってるというのが、理解できないんですね。
 私は二〇〇六年のフリーターメーデーのときに初めてこの運動のデモに参加したんですけど、その日すごくショックだったのは、二百人ぐらいの、ほんとうに貧乏くさい若者たちが路上に出て、「生きさせろ」と叫んでいたことです。月十二万じゃ生きていけない、もう住むとこもない、家賃も払えない、食っていけない、フリーターにも一人前の賃金をよこせ、と。まさか二十一世紀になってこういうデモが日本で起こるとは思わなかったし、自分が小さいころに考えていた三十代のイメージと全然違って、実際に周りの人がどんどんホームレス化していた。それに気づいたとき、ほんとうに足元が崩れていくぐらいのショックを受けながらも、逆に、この社会が崩れていく瞬間に立ち会うというのはおもしろいなとも思いましたね。
――これまでは、ホームレスになってしまうのはいろんな悪条件が重なったからだと思われていたんだけど、実はたった一つの条件が変わっただけでも、ポロンと落ちてしまう。
雨宮 正社員が非正社員になるだけでもホームレスの率が相当高くなる。この前会った三十代の男性は、正社員で会社の寮に住んでいたんですけど、会社を辞めたら仕事と住むところを同時に失ってホームレスになってしまった。親がいなかったので、そのまま路上に行って、二週間何も食べずに大阪をずっとさまよっていた。結局、近所の人にご飯をもらって生き延びたんですけど、それがなかったら、多分餓死していただろうといってました。普通に三十代の餓死ってあり得るんだなって思いました。それに、ひきこもりやうつ病で家にずっといる人たちも、両親が死んでしまうと、一挙に餓死の危機が迫ってくる。
 だから今ほんとうに必要なのは、ここに行けば死なない、ここに行けばお米がもらえる、お金を貸してもらえる、屋根の下に住めるというセーフティーネットであって、それをつくろうという運動でもあるんですね。
  (一部抜粋)


【雨宮処凛さんの本】

『雨宮処凛の闘争ダイアリー』
5月2日発売
定価1,575円(税込)
単行本
プロフィール

雨宮処凛
あまみや・かりん●作家。
1975年北海道生まれ。2000年、『生き地獄天国』で作家デビュー。著書に『暴力恋愛』『雨宮処凛の「オールニートニッポン」』『プレカリアート』『生きさせろ! 難民化する若者たち』(日本ジャーナリスト会議賞)等。


重松 清
しげまつ・きよし●作家。
1963年岡山県生まれ。著書に『ナイフ』(坪田譲治文学賞)『エイジ』(山本周五郎賞)『ビタミンF』(直木賞)『疾走』『青い鳥』『ブランケット・キャッツ』『スポーツを「読む」』等。



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