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集英社新書 20周年に寄せて 姜尚中

[特集]

集英社新書創刊20周年記念

集英社の〈知の水先案内人〉として、文化、芸術、政治、経済と幅広いジャンルを網羅する集英社新書が、2019年11月、創刊20周年を迎えました。そこで今号では、集英社新書でおなじみの著者の方々にご登場いただき、集英社新書や自身の著作への思いを語っていただきながら、その歴史を振り返ります。

 集英社新書での最初の仕事は、作家・森巣博氏との共著『ナショナリズムの克服』(二〇〇二年)でした。私にとっては新書デビュー作で、オーストラリアでの対話を収録した初めての「対談本」でもあるという「初物尽くし」だったので、記憶に残っています。その後、共編著も含めて三〇冊近くを集英社新書で出すことになるとは、予想していませんでした。
 一番印象深い仕事は、やはり一〇〇万部を売り上げた『悩む力』(二〇〇八年)です。なぜこれがミリオンセラーになったのか、今なお不思議でなりません。ただ、私が考えているのは、それぞれの時代には特有の「気象」というものがあるらしいことです。新書というのは、とりわけ時代の影響が色濃く反映されやすい媒体だといえるのではないでしょうか。
 振り返れば、本書刊行後ほどなくしてリーマンショックが起こり、翌年には民主党への政権交代やオバマ政権の誕生もあり、価値観の大きな動揺が生じていました。その渦中で、日本社会の全体が内省的な空気に包まれていたように感じます。折しも、『悩む力』はそうした時代の風を受け、想像を遥かに超えるヒットへと育っていったのでは、とひそかに想像しています。
 現在の集英社新書に目を向けると、流行や売れ筋に追われて一喜一憂したりせず、ソリッドな定見を持って時代に向き合っているように感じて、とても頼もしさを覚えます。かといって、決して原理主義的な性格にも陥っておらず、バランス感覚にきわめて優れている。数ある新書を見渡しても、最も信頼が置けるレーベルのひとつだというのが私の評価です。
 加えて、今の集英社新書からはアクチュアリティの強い問題を積極的に扱おうという気概を感じます。もちろん古典的な議論を嚙み砕いて紹介するのも新書の役割ですが、それだけでは「今」という時代を見失いかねません。現在的な問題に密着しながら、かつ単なるジャーナルにとどまらない深い洞察を加えるというのは難しいバランス感覚が要求されますが、まさしく新書という媒体ならではの重要な任務です。今後も集英社新書はアクチュアリティを失わず、意欲的な問題提起を続けていって欲しい、という期待をエールとともに贈り、二〇周年のお祝いの言葉に代えさせていただきます。

姜尚中

カン・サンジュン●東京大学名誉教授、鎮西学院学院長

『母の教え 10年後の『悩む力』』

姜尚中 著

発売中・集英社新書

本体840円+税

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