青春と読書
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100冊YEAR&『複合捜査』刊行
インタビュー 世の中のあらゆることをエンタメから教わりました 堂場瞬一
さいたま市内の繁華街における夜の治安悪化に対応するため、夜間緊急警備班(Night Emergency Security Unit、通称NESU)が発足。埼玉県警のどの部にも属さないこの独立組織には、あることが原因で出世の道から外れてしまい、復帰に情熱を燃やす班長・若林祐(たすく)を筆頭に、二十八人の警察官が集められ、交代でパトロールに当たっていた。そんなある夜、連続放火事件が発生し、翌日には殺人事件が。若林は捜査をする中で、一連の事件と自分との繋がりに気づいてゆくのだが──。
集英社文庫より刊行された堂場瞬一さんの『複合捜査』は、架空の独立組織NESUを舞台に繰り広げられる、スピード感たっぷりの警察小説です。二〇〇一年、小説すばる新人賞受賞作『8年』でのデビュー以来、本作は堂場さんにとって九十一冊目となる作品で、さらに二〇一五年は、百冊目の刊行も予定されています。この記念すべき年を迎える堂場さんに、本書についてや、作家としての姿勢についてなど、お話をうかがいました。


モジュラーものへの挑戦

──今日は集英社文庫の書き下ろし作品『複合捜査』について、また、二〇一五年は堂場さんの百冊目の著書が刊行される年になるということで、これまでの作家としての歩みについてもうかがいたいと思います。まず『複合捜査』ですが、着想はどこから?

 モジュラーものを書いてみたかったんです。複数の事件が並行して起きていく物語で、海外のミステリではよくあるパターンです。いままで本格的なモジュラーものを書いたことがなかったので、一度試してみたかった。始まりはそういうテクニック的なことからでした。

──たしかに出だしから、夜の街でケンカ、四件の連続放火が起き、その翌日には殺人事件の死体が発見されます。一気に物語に引き込まれますね。

 今回はスピード感と、バタバタと混乱している感じが狙いですね。モジュラーものはストーリーが複雑になりがちで、読者を混乱させやすいんですが、一度、自分なりの流儀で、そんなにぐちゃぐちゃさせないで読みやすく書きたいと思っていました。

──堂場さんの作品を読んでいていつも思うのはムダがないこと。今回も次々に事件が起こりますが、タイトに構成されていて最後には物語の全体像がはっきりと見えてきます。

 モジュラーものって、下手をすると伏線が回収できなくなるんですよ。前半に起こった事件の一つが未解決のまま放置されちゃうとかね。今回は、そうならないように折り畳んでまとめることを意識したので、いままでのものよりコンパクトな印象があるかもしれません。ページ数そのものは決して短くはないんですが。

──なるほど。複数の事件が起きることで、関わってくる登場人物も多くなる。すそのの広い物語とも言えますね。

 広げ過ぎちゃうと大変なことになるので、何とかうまく折り畳んで、折り畳んで。そういうところが非常に今回は面倒なところでありましたけど。それと、『夜勤刑事』へのオマージュです。誰かに指摘されるのは嫌なんで自分から言っておきます(笑)。

──マイクル・Z・リューインの代表作ですね。堂場さんが過去に愛読書として挙げられていました。『複合捜査』では、発足したばかりの「夜間緊急警備班」が捜査に当たるという設定です。

 まあ、『夜勤刑事』と今回の警察のシステムは全然違うんですけど。いままで警察小説を書いてきて、昼と夜なら昼が中心だった。今回は都市の夜の顔を書いてみたかったということもあります。

──物語の舞台は埼玉県さいたま市。冒頭は大宮の夜の繁華街です。

 最初は埼玉県全域でできないかと思って、真剣に考えたんですよ。でも、そうすると百人くらいの規模の組織になっちゃうんですよね。夜中に勤務するということは交代制ですから、交代要員が大量に必要になる。すごく大きな組織になってしまうので、話が別の方向に行ってしまいそうになったんですよ。それで、とりあえず県庁所在地であるさいたま市に絞ろう、と。

──なるほど、それで大宮が舞台に。

 埼玉で繁華街といえば、あのあたりですから、夜に事件が立て続けに起こるということで思い切って絞ったんです。

──新宿の歌舞伎町が「不夜城」と言われていましたけど、いまは東京近郊の都市でも二十四時間営業の店が増えていますよね。

 夜中に二十四時間営業のチェーン店を狙った強盗事件も起きていますからね。都会の夜にうごめいている犯罪者が大勢いるわけです。

──主人公は、その夜の犯罪を取り締まる「夜間緊急警備班」の班長、若林祐という刑事です。豪腕タイプですが、非常にクセのある刑事ですね。

 うん、変な人ですよね。ちょっと困ったもんですけどね。

──困った人ですか(笑)。仕事が趣味で、困難にあってもメゲないというか感じないというか。

 最近あんまりいないタイプですよね、どの業界でも。いまはみんな体温低いから。

──熱すぎて暴走する。それも周りを巻き込んでいきます。

 周りにいたら嫌でしょうね。本人が苦労していると感じているのかどうかがよくわからない。だから、そういう意味では、彼が真ん中でブラックホールになってるみたいで、周りの人が影響を受けているって感じだと思います。ブラックホールと言いましたけど、今回は主人公の内面にあえて踏み込んでいない。小説を読むスピード感が損なわれるということもありますし、読者の想像にお任せしたい。事件しかない、仕事しかないっていう感じなのかと思えばそうでもないところもあるし、その辺は意図的にぼかしているところもあります。あえて書かなかったことで逆に、もう少し裏がある人物かもしれないと思わせることができたのではないかと思いますね。

『検証捜査』のスピンオフ

──『複合捜査』には、『検証捜査』に登場した埼玉県警の桜内省吾がふたたび登場します。主人公は若林なのでこちらから読んでもまったく問題はないですが、『検証捜査』を読んでいる読者には嬉しいですね。

『検証捜査』との関係をどう表現するかは難しいんです。続編ではないので。

──時系列的には『検証捜査』よりも後で、同じ人物も登場しますが、続編ではない、と。

 シリーズでもない。だから、姉妹編なんでしょうけど……その一冊目からスピンオフ? 『検証捜査』の。

──ちょっと珍しいあり方ですね。

 今後の展開はまだわかりませんけど、『検証捜査』が根っこになって、そこから芽が出てくる感じになるんじゃないかと。本作が一作しかないのにほかが全部スピンオフという、ちょっと変わったものになりそうです。登場人物がかぶってくるからシリーズって言ってもおかしくはないんですが、それではおもしろくないんですよね。志として、単なるシリーズではありませんよ、と。書く側の心がけの問題ですね。

──『検証捜査』をお書きになったときには、そういうアイディアがすでにあったんですか。

 考えてなかったですね。あのときはとにかく、全国あちこちから人を集める理屈を考えようっていうことが先で、後のことまで考えていなかった。結果的にはあのときのチームがあちこちに散ってくれて、今回は舞台が埼玉ですけど、次は北海道かもしれませんし、博多かもしれません。シリーズでもないし単発ものでもないという不思議な感じですね。今後どういう展開ができるかおもしろいなと思ってますね。まだ次は考えてないですけど。

──小説家の方々にお話をうかがっていると、ご本人が何の気なしに書いてた一言、一行とかが後の作品で生きてきたりということがあるそうですね。

 あると思いますね。

──今回も『検証捜査』のときに無意識に書いていたことが種になっているのでしょうか。

 無言の手がかりみたいなね。でも、それは自分では気がついてなかったりする。読んだ人が気づいて教えてくれて「え?」みたいなことはありますよね。何かあるんでしょう、きっと。

──『検証捜査』を読んだ人は、桜内が出てきた時点で、すわ続編かと思うかもしれませんが、桜内はサブで、『検証捜査』を経験したことで、チームを意識するようになっていて、チームワークなどくそくらえの若林と対照的な立ち位置になる。そのドラマもすごくおもしろかったですね。

 桜内はかわいそうですよね。ザ・中間管理職。チームを書いていくと、必ず中間管理職ってのがいるんですが、いままで露骨に中間管理職が板挟みになる話を書いてなかったので、今回は彼にその典型として苦しんでもらいました。彼には申しわけなかった。ちょっと反省しています。

──反省ですか(笑)。以前から堂場さんは、小説を書く楽しみとして、フィクションの人生を書けるということを挙げていらっしゃいましたが、登場人物に愛着が湧いたりするんですか。

 人間関係と同じで、愛着が湧いたかと思うと、嫌なやつだなとか思うこともあるんです。だから、実際のつき合いと同じで、書いてるうちに嫌になってきたりとかね。その逆に、最初嫌だと思っても、何かだんだんかわいそうになってきて、少しいい目にあわせてやろうかとか。意外と生身の人間のつき合いと同じですよ。

実際の人間関係に近づける書き方

──この作品は堂場さんにとって九十一冊目の著書で、二〇一五年秋には百冊目が出版される予定です。デビュー作の『8年』の刊行が二〇〇一年なので、それから十五年目で百冊というのは驚異的なハイペースですが、ご自身ではどうお感じですか。

 まあ、趣味なんでね。仕事って言うとつらくなるので。だから、いくら書いてもいいんです。

──しかも二〇一二年まではお勤めしながらの兼業作家だったというのも驚きです。専業になってからさらにスピードアップしていますよね。

 いくらなんでも、もう少しペースを落とそうという気はあるんですよ。でも依頼されている以上、ペースについては調整を放棄しています(笑)。こっちは中身を考えるのが仕事なので、何をどう書くか、考えているのはそれだけですね。

──こんな作品を書こうというアイディアはストックがあるんですか。

 依頼されてから考えることが多いですね。編集者と話しているうちに思いついたり。でも、以前から考えていたことをこの機会にやってみようということもあります。『複合捜査』はそのパターン。モジュラーものを書こうということがずっと頭にあって、それが表に出てきた。いまも何本か、こういうのを書きたいなというものがあって、タイミングが合って、うまくいきそうならやってみようと思っています。

──今回はモジュラーものへの挑戦というきっかけがあったそうですが、次はこんなことをやってみたいという挑戦も小説を書くモティベーションになりますか。

 シリーズものなんかだと、同じようなものを求められることもありますけど、それでは書いていておもしろくないので、何かしら新しい要素を入れたり、いままでやっていないことをやったりとか、そういうことは常に意識してますね。それがなかったら次を書く意味はあんまりないですから。

──シリーズものといえば、堂場さんには「警視庁失踪課・高城賢吾シリーズ」「アナザーフェイス」などの人気シリーズがありますが、ノンシリーズとで、お書きになるときの意識の違いはあるんでしょうか。

 シリーズものはとにかく最初の一冊目が一番大事で、キャラクターも含めて設定をしっかり決めてしまえば、あとは彼らをどう動かしていくか。だから、一冊目がちゃんと出れば、あとはキャラクターの心配をしなくて済む。ストーリーに専念できるって強みがあるわけですよ。一方、ノンシリーズは一発勝負なので、そこはもう何も考えずにどかんと全力で行くだけですね。

──『複合捜査』の桜内がどうしても脇役であるように、シリーズものの主人公たちは、何かある種の輝きみたいなものがあるのでしょうか。

 シリーズでもノンシリーズでも物語の核になる人物は結局一人なんですよね。その一人について多く書いていると何か出てくるんでしょうね。ただ、書く前からこの人をこういうキャラ設定にして、ということは事前には考えないですね。

──あまり細かくは決めないんですね。

 書いてるうちにいつの間にか定まってきて、一冊書き終わるころにできあがる、というパターンが多いですね。最初に露骨にキャラづけをすると、そこに引っ張られてあまりうまくいかなくなることが多い。一つだけ、たとえば酒を飲むのが好きとか、それを決めておくくらいですね。

──なるほど。書いているうちにだんだんその人物ができてくるということですか。

 カチッと決めてしまったらおもしろくないじゃないですか。この人はこういう人だからと最初に決めて、枠からはみ出さないようにしてしまうと。書いてるうちに、その主人公が周りの人間の影響を受けたりして変わってくるのがおもしろい。
実際の人間関係もそういうものでしょう。

──そうですね、たしかに。

 何かのトラブルに巻き込まれれば、その影響で変わる部分もあるわけで、そこはリアルの世界と同じにしようという気持ちが強いですね。書き始める前にストーリーはわりときっちりつくるんですけど、キャラ設定はその人が置かれた立場の設定までで、性格までは決めない。物語の流れの中で彼がどう変わっていくかを追えばいいのかなと思っています。

──ストーリーの組み立て方なんですけど、『複合捜査』でいえば視点が三つありますよね。主人公の若林、サブの桜内、そして姿を現さない犯人。プロットを立てたときには、こういう構造で行こうと決めてあるんですか。

 視点に関しては、決めてるときと決めてないときがあります。そこはけっこういいかげんですね。プロットに書いてあるのは、こういう話ですよ、というところまでで、視点に関しては、書き出してみないとわからないところがあるんですよ。本当は視点もきっちり決めておけば後で楽なんだろうけど、ただ、そうすると前準備が大変になるのと、本編を書いてるときに、それを清書してるだけみたいな感じになってしまいますよね。それはおもしろくない。

──書きながら考えていくことが重要なんですね。

 書きながら、最初に考えていたものからどんどん変わっていく。それがまたおもしろいんですよね。

プロとアマチュアの間で

──「書く」ことがおもしろい。それは先ほどおっしゃっていた「趣味」ということにもつながりますね。

 でも、かと思うと、シリーズものでは、ある程度は読者の期待を裏切らないように書こうと思っていますね。主人公にこういう行動をさせないとがっかりさせてしまうな、とか。
シリーズを一冊ずつ積み上げていくことで、読者に楽しんでもらおうというプロ意識もあるんです。

──なるほど。

 その反面、アマチュアな感じもずっとあって、まったく読者を意識しないものも書いているんですよ。『解』がそうでしたね。

──九〇年代から現代までの時間軸をベースにした骨太のミステリでしたね。七〇年安保の学生運動を題材にした『衆』と対になる野心作です。たしかにシリーズものを読んできた読者にとっては異色の作品ですね。

 たまにああいうのを書きたくなるわけですよ。だから、自分の中ではそのあたりがアマチュアっぽいと感じるんですよね。これってビジネスじゃないだろうっていう。ボーン・トゥ・ライトなのは間違いないんだけど、それは仕事で書いてるのか趣味で書いてるのか。ちょっと自分でも首をひねるところがある。

──「ボーン・トゥ・ライト」。書くために生まれた。いい言葉ですね。

 ボーン・トゥ・ライトだから書かないと死んじゃうんですけど、それは仕事ですかと言われたら「はあ、まあ」としか言えないんですよね。お金を稼ぐ部分とそうじゃない部分っていうのが両方あって、自分がどっちに寄り添っていくのかがよくわからない。それで悩むことはないんですけど、あらためて聞かれるとお答えしにくい部分がありますね。

──最後にうかがいたいんですが、堂場さんの中にプロとアマチュアが同居していたとしても、作品はすべてエンターテインメントとして書かれていると思います。堂場さんにとってエンターテインメントとはどんなものでしょう?

 私の書くものは全部エンタメです。作家になる前からずっと読んできたのが海外のエンターテインメント小説でしたし、小説とはこういうものだと知らないうちに学んできたのだと思います。仕事か趣味か曖昧なのも、読者としての時代が長かったからかもしれませんね。私自身が世の中のあらゆることをエンタメから教わりましたから、それがすべてだと思ってます。

聞き手・構成=タカザワケンジ
【堂場瞬一 著】
『複合捜査』
発売中・集英社文庫
本体800円+税
電子書籍版は2015年1月16日配信予定
詳細は集英社の電子書籍公式サイトをご覧ください。
http://ebooks.shueisha.co.jp
プロフィール
堂場瞬一
どうば・しゅんいち●作家。
1963年茨城県生まれ。2000年、『8年』で小説すばる新人賞を受賞。新聞社勤務のかたわら小説を執筆し続け、12年末、専業作家に。著書に「刑事・鳴沢了」シリーズ、「警視庁失踪課・高城賢吾」シリーズ、『少年の輝く海』『衆』『解』『検証捜査』『グレイ』『警察回りの夏』等。
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