ホテルを舞台に描かれるミステリー長編『マスカレード・ホテル』を、現職のホテリエたちはどう読み解くのか?
「マスカレード」シリーズで取材協力をされているロイヤルパークホテル(東京・日本橋)にお勤めの真野碧(まのみどり)さんと、都内の一流ホテルにお勤めの富所和雅(とどころかずまさ)さんに、本作の読みどころを伺いました。
リアリティのあるホテルの描写に共感!
ロイヤルパークホテル・営業職
真野 碧
ミステリーはあまり得意ではなかったのですが、東野さんの作品は、ミステリーといっても背筋がぞくっという感じではなく読みやすいので、ついつい夢中になって、電車を乗り過ごしたりしたこともあります。
東野さんが私どものホテルに取材に来られたときに、私もその様子を拝見しましたが、スタッフに細かく話を聞くというよりも、ホテルの裏側はどうなっていて、スタッフたちがどういうふうに動いているのかとか全体的な構造をご覧になっているように見えました。また、シーツなどが収容されているリネン室など、普段はなかなか入れないところをしっかり取材されていらっしゃいました。そうした入念な取材をなさっていたからこそなのでしょう、『マスカレード・ホテル』を読んでいると、まるでホテルで働いたことのある人が書いたんじゃないかと思えるほど、細部にわたってリアリティのある描写がされていて、思わず「そうなんですよ」と頷きながら読ませていただきました。
山岸尚美さんは、いつも冷静沈着で、お客様の喜びを第一とする本当に素晴らしいホテリエです。もし、山岸さんが先輩だったら、自分にも他人にも厳しいタイプでしょうから、正直、最初はとっつきにくいかもしれないし、怒られたらへこむと思います。でも、自分の信念を曲げずサバサバした性格に、きっと同性からも好かれるのではないでしょうか。
私が山岸さんだったら、新田刑事にあんなに厳しく指導できるかどうか自信はありませんが、私もまず髪形や服装をきれいにさせますね。ホテリエは、常にお客様に見られている職業ですし、ホテリエの印象=ホテルの印象になるので。
そうやって、いつの間にかホテルの内側の人間として小説を読んでいるんですね。こういう読書体験は稀有ですから、次作の『マスカレード・イブ』もすごく楽しみです。
お客様第一の山岸さんはホテリエのお手本です
都内一流ホテル・営業職
富所和雅
私が所属しているのは営業部です。宴会、宿泊の他、基本的にホテルに関するものすべての販売に携わっているので全般的な知識が必要とされ、ベルマン、フロント、レストランなどの出身者が比較的多い部署です。私自身、レストランから営業に移りました。
本は好きで、よく読みます。もちろん、東野さんの作品も読ませていただいています。『マスカレード・ホテル』は、ホテルが舞台ということで、どういうふうに展開していくのか、期待に胸を膨らませながら読み始めたのですが、お客様から見たホテルの表側と、従業員の目線を通したホテルの裏側という二つの側面が描かれていて、東野さんの取材力に驚かされました。
小説に登場する山岸尚美さんは、非常に正義感が強く、お客様のことを第一に考えていて、まさにホテリエのお手本みたいな方です。私どものホテルにも山岸さんのような人が一人でも多くいればと思います。ホテリエに限らず、若い人は立派な先輩を見て育っていくわけですから。
ホテルには、実にさまざまな方たちがいらっしゃいます。レストランにいた頃、こんなことがありました。ある女性のお客様がいらして、その方はいつも耳にイヤホンをして本を読んでいらっしゃいました。食事中にもイヤホンを外さないので、珍しいなと思っていたのですが、あるときたまたまお話しする機会があって理由がわかりました。その方は外国語の通訳をしていらして、日本にいると日常的にその外国語に接する機会がないので、耳を慣らすために、その外国語を聴きながら原書を読んでいたのだそうです。
ミステリーというほどの話ではありませんが、『マスカレード・ホテル』を読みながら、そんなことを思い出したりもしました。東野さんには、ホテルという空間の素晴らしさ、楽しさを、今後も書いていっていただきたいですね。
|
|
|
|
|
【東野圭吾 著】
『マスカレード・ホテル』
発売中・集英社文庫
本体760円+税 |
|
|
|
|
|
【東野圭吾 著】
『マスカレード・イヴ』
8月21日発売予定・集英社文庫
本体600円+税 |
|
|
|
|
|