青春と読書
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集英社文庫の映画化話題作 万城目 学『偉大なる、しゅららぼん』
対談 撮影現場の空気に感じた「この映画いけるんじゃね!?」 原作者 日出淡九郎役 万城目 学×佐野史郎
マキメワールド≠ニ称される摩訶不思議な世界観で多くの読者を虜にしてきた万城目学さんの人気小説、『偉大なる、しゅららぼん』が集英社文庫より刊行されました。さらには、本作の世界観をそのままに豪華キャストで映画化され、2014年3月8日(土)から公開されます。文庫刊行と映画完成を記念して、日出(ひので)本家当主の淡九郎(たんくろう)役を演じた俳優・佐野史郎さんと万城目さんの対談をお届けします。

原作がすでに映像的

佐野 映画の撮影にあたって、原作を拝読させていただきました。読みやすいながらも物語のバックボーンがしっかりしているなと感じました。素晴らしい作品に参加させていただいて光栄です。
万城目 こちらこそ、ありがとうございました。
佐野 僕は小説なども書いたりするのですが、俳優なので、ものを書く時にシナリオが入口になるんです。だから仕事で何か書く時、最初の頃は全部シーンに分けて書いていました。ト書きがあって、会話などがあれば台詞にして。今でも小説は映画のカット割りのようにシーンで書いていきますが、万城目さんの作品もその感覚に近い。きちっとカット割りがされていて、原作からすでに映像的だと感じました。何か意識はされていますか。
万城目 昔からテレビや映画が好きだったということもあるのかもしれませんが、書く時は、カメラからの目線をイメージして、一人目がこう出てきて、二人目がこう出てきて、どういうタイミングで会話を始めるか、といったことから考えますね。そうしないと、どこかに矛盾が出てきてしまうことがあるので。
佐野 やっぱりカット割りなんですね。映画をご覧になっていかがでしたか。
万城目 俳優さんがまだ出てこない最初の五分くらいのところで、ああこの映画、大丈夫だなって思いました。次々と話が展開していくので、観る側を飽きさせることがない。内容の濃い映画だなと。
佐野 僕も完成試写を観たのですが、作品のことを全く知らない人が観ても、どういう映画なのかというのが、最初のところで分かりやすくポンと入ってくる感じがして、潔いと思いました。
万城目 撮影も一日だけ見せていただいたんですよ。
佐野 どのシーンでした?
万城目 最後、雨の中で日出家の船頭・源爺が「逃げてくだせぇ」と叫ぶシーンです。
佐野 ああ、朝までやったシーンだ。
万城目 源爺役の笹野高史さんが寒い雨の中何回も叫ばされていたんです。僕が雨のシーンを書いたばっかりに(笑)。それを見て、あらためて俳優という仕事の大変さを実感しました。

淡九郎の最初のイメージは
ヴィトー・コルレオーネ


万城目 原作の淡九郎は氷のように冷たくて、最後まで息子と打ち解けない親父ですけど、佐野さんが演じる淡九郎には慈愛の面がありましたね。
佐野 確かにそうですね。と言いながら、僕は原作に忠実にやりたい方で、淡九郎が校長と対峙するシーンで、スーツの襟を正して髪を撫でつけつつ近寄っていくというのは、原作の通りに演じたんです。
万城目 なんと、そうだったのですか!
佐野 ただ映像だと、話の流れよりもその仕草に目が行き過ぎてしまう嫌いがある。でも、こういうのは演じる側の愉しみのひとつでもあるんです。「あっ、書いてある通りにやっている」っていう原作マニア向けのメッセージ(笑)。
万城目 書斎の椅子にドンと座って話を聞いている淡九郎の最初のイメージは、『ゴッドファーザー』の一作目の冒頭に出てくるヴィトー・コルレオーネだったんです。結婚式をやっている一方で、書斎にパン屋がやってきてコルレオーネに頼み事をする場面です。
佐野 それ、聞いておくと良かったなぁ。
万城目 いえいえ、むしろ先に言わなくて良かったと思います。原作に近い和洋折衷の書斎を舞台に、佐野さんに演じていただき、映像となる。自分がイメージしていたものが生きたものに変わっていくことが、とても面白く感じました。

『ぼくらの七日間戦争』
に通じる意外な共通点


佐野 女子は赤い学ランを着た岡田将生さんと濱田岳さんのツーショットや渡辺大さんとの絡みに、男子は深田恭子さんや貫地谷しほりさんに萌えるでしょうね。深キョンの赤いジャージ姿は、ある意味全裸より犯罪だよ(笑)。
万城目 そうですね(笑)。赤い色の学ランは、刺繍など結構細かいところまで凝って作られていましたね。
佐野 あの制服の色は、「日出=太陽」だから赤なのだと思っているんですけど。
万城目 あれは、単純に何かインパクトのある外見にしたいなと考えていた時に、実家が滋賀の友達から、名産品の赤こんにゃくをお土産にもらったんです。これは制服の色を赤にして、学校で「おまえ赤こんにゃくか」ってからかわれたら面白いぞ! と思いまして。調べると、派手好きの織田信長が赤いものを色々作った中で、残っているもののひとつが赤こんにゃくという話もあって、歴史が絡んでいて良いなと。
佐野 なるほど。今回はロケ地選びや衣装のことも含め、スタッフの方々の力が素晴らしく発揮されていたと思います。画がきれいで、音が良くて。キャストでいえば出演陣の仲の良さも良い方向に出ていると思います。撮影で滋賀に滞在中は、みんなでよく一緒にゴハン食べたり飲みに行ったりしてたんですよ。こんなに全員仲が良いのは珍しいかも。出演者はみんなLINE(携帯通話アプリケーション)で繋がっていて、クランクアップした今でもやり取りが続いているんです。
万城目 確かに、俳優さん同士の関係の柔らかさが映画にも出ているように感じます。
佐野 この仕事を長くやっている中で、この映画いけるなっていう現場の空気ってあるんですよね。二十五年前に大ヒットした『ぼくらの七日間戦争』という映画に、笹野さんと一緒に出たんです。
万城目 僕はあの映画で初めて佐野さんを拝見しました。
佐野 今回の現場がその時の雰囲気にとてもよく似ていたんですね。スタッフ、キャスト、みんなの連帯感がすごくあって、現場がほど良く緩い感じが。それで笹野さんと「この現場、あの時と似てない? この映画いけるんじゃね!?」って話していたんです。
万城目 実は僕、宗田理さんの作品が大好きで、『ぼくらの七日間戦争』の原作も二、三十回読んでいると思います。
佐野 そうか、無関係じゃないかもね。
万城目 たぶん面白いと思う方向があの作品と似ているんだと思うんです。
佐野 なるほどね。しかも出演者もかぶってるという(笑)。『ぼくらの七日間戦争』のように今作も大ヒットして欲しいですね。

構成=佐々木康治
 
【万城目 学 著】
『偉大なる、しゅららぼん』
発売中・集英社文庫
定価798円
プロフィール
万城目 学
まきめ・まなぶ●作家。1976年大阪府生まれ。2006年、『鴨川ホルモー』で第4回ボイルドエッグズ新人賞を受賞しデビュー。著書に『鹿男あをによし』『ホルモー六景』『プリンセス・トヨトミ』『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』『ザ・万遊記』『とっぴんぱらりの風太郎』等。
佐野史郎
さの・しろう●俳優。1955年山梨県生まれ島根県育ち。86年、映画『夢みるように眠りたい』で初主演。92年、ドラマ『ずっとあなたが好きだった』の冬彦役でブレイク。ドラマ、映画で活躍する傍ら、バンド活動や、敬愛する小泉八雲を朗読や解説などで全国に紹介する等、幅広く活動している。
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