普段は入れないところに潜入し、外からはうかがい知れないディープな裏側を探るNHKの教養エンターテイメント番組「探偵バクモン」。その拡大スペシャルとして放送された「いじめ × 爆笑問題」の回をもとにまとめた『爆笑問題と考える いじめという怪物』が集英社新書から刊行されました。本書刊行にあたり、太田光さんにお話をうかがいました。
――番組で「いじめ」を採り上げようと提案したのは、太田さんだったそうですね。
はい。過去にも何度も社会問題になってますよね。
――太田さん自身はいじめられた体験はありましたか?
俺は、いじめられたことはありませんでした。ただ、番組でも言いましたが、いじめで無視されていたわけではないんですけど、高校時代に友達が全然できなかったので、それは結構苦しかったです。俺はちょっと変わっていて、誰かが寄ってきても、自分から拒絶していました。そういう意味で、高校生のときは、いじめたりも、いじめられたりもしませんでした。もっとも、中学生のとき、俺はいじめっ子でしたけど。
――それはどういういじめだったのでしょうか?
ある一人を対象にして、みんなの前でいじって笑いをとるという感じでしたね。二人だけのときはとても仲がいい。でも、他にギャラリーがいるときには、その友達をネタに、俺が笑いをとるみたいなパターン。蹴ったり叩いたりとか、そういう肉体的な行為ではないんですけど、言葉のやり取りで恥をかかせるみたいな ……。ものまねとか、そういうちょっと嫌がることをやらせて、突っ込んだりとか。
――お笑いに近いですね。
今の田中裕二とのやり取りなんかも、そういうことの延長線上みたいなところはありますね。
――そういういじめは、あまりないようにも思いますが?
いや、むしろ、今はそういうのが増えているのかもしれないと俺は思っています。生真面目な人をからかって面白いと思うような感覚が、もともと人間には普遍的にあるのではないかと思うんですよ。例えば、頑固親父がずっこけるのが、多くの人には滑稽だったりして面白いんです。それが人をホッとさせたりもします。
番組でも話題になったし、常に論点になりますけど、お笑いやバラエティといじめとがまったく違うものだという理屈には、俺はあまり賛成できない。学校にテレビの影響がまったくないとも言えないと思います。
ですが、チャップリンの作品などを観てもわかるように、笑いというものには残酷な気持ちだけがあるのではなくて、同時に「共感」も存在しているんですね。コメディとか、お笑いというものは、実はいろいろな感情が複雑に絡み合って、結果として笑いが生まれています。例えば、人間が未熟なことに対する安心感があったりもする。そしてそれが、生きていていいんだという気持ちにつながったりもします。
もちろん、いろいろなレベルのものがありますが、俺は、笑いとは人が生きていくのに必須のものなんだと思っているんです。それがなければ生きていけないというくらいのものではないかと。
だから、俺は、それがいい悪いというよりも、人間にはそういう面があるという前提で物事を考えたほうがよいと思うんです。
――本にも収録されていますが、番組では、いじめに遭った子どもたちと話したり、いじめで不登校になった子どもたちが通う“いじめ”を起こさない学校(東京シューレ葛飾中学校)を取材していますね。
シューレは、小島慶子さんと行きましたが、生徒一人ひとりにきちんと向き合って、個性を大切にして、とてもよい学校だと思いました。いじめを起こさないために、いろいろな工夫がされていますね。
ただ、俺はそれをみていて、逆に一般の学校にも、もっとがんばってほしいと感じたんです。というのも、番組でも言いましたが、学校の授業こそが、まさに人が生きていくヒントを与えてくれるものだと思うから。
結局、学問というものは、人はなぜ生きるのか、世界はどうあるのかという疑問に対する、様々な角度からのアプローチなんだと俺は思います。これまでいろんな分野の先生たちと話してきて、そう感じました。
別に道徳とか哲学などというジャンルで教えなくても、通常の教科、つまり国語や算数、理科や社会の根底に、そういう問いが含まれていると思います。だから、そうした教科の中には、人が生きていくためのヒントが詰まっているし、学校はその入り口になっています。
おそらく、小学校や中学校の先生が、その学問自体の面白さを伝えることができれば、それが、子どもたちの生きていく糧へとつながっていくと思うんですよ。
――学校へ通っているころの太田さん自身は、どうでした?
俺は、昔は学校なんて必要ないという人間だったので ……。だから、先生にはあまり期待してなかったんですけど、学校というのは独学する場所だと考えても、とても便利な場所なんですよね。
――いじめでつらい思いをしている子どもたちに対しては?
つらかったら、逃げていいんだよということを伝えたいです。俺は絶対に死だけは選ばないでほしいと思っているので、それだったら生きて逃げてほしいんです。
例えば、通っている学校がつらかったら、不登校になっていいんですよ。番組で紹介したように、今はフリースクールも色々ありますし、学校に行かなくてもいい。
もし、親や先生にも相談できないような場合、つまり身近に相談相手がいないなら、番組の座談会で滝充先生が挙げたように24時間の電話相談もあるんですね。
あと、俺自身、友達がいなくて高校時代は結構つらかったんですが、これもせいぜい三年間のことだと思っていました。現実ではないことを、いろいろと想像していたんです。学校は一定の期間だけですし、その先の将来や、今ここでないことを考えるような想像力を持てたらよいのではないかと思います。
――どうしたら、そういう想像力を持てるでしょう?
新書の中でも述べましたが、子ども向けの本として俺がおすすめなのは、例えば『赤毛のアン』や『トム・ソーヤーの冒険』ですね。どちらも面白いし、主人公がとても豊かな想像力を持っています。アンはつらかったときなどに、現実を離れた空想をいろいろしているんですね。
俺は、そういう想像力が本当に人を救うなと思っています。俺自身それで救われた経験があるので。
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(二〇一三年三月二十五日、東京都内にて) |
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【太田光/NHK「探偵バクモン」取材班 著】
『爆笑問題と考える いじめという怪物』 発売中・集英社新書 定価777円 |
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太田 光
おおた・ひかり●漫才師、文筆家。
1965年埼玉県生まれ。88年にお笑いコンビ「爆笑問題」結成。政治から芸能界まで様々な社会現象を斬る漫才は、幅広い年齢層に支持されている。著書に『マボロシの鳥』『しごとのはなし』『文明の子』等。共著に「憲法第九条を世界遺産に」等。 |
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