青春と読書
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対談
対談 大人になりきれないことのリアルさ 金原瑞人×河原千恵子(小説すばる新人賞受賞)
第22回小説すばる新人賞を受賞した河原千恵子さんの『白い花と鳥たちの祈り』。母が再婚し、新しい街に引っ越してきた中学一年生の少女あさぎは、母や継父、新しいクラスメートとなじめないまま孤独を感じている。そんなあさぎの心の支えは郵便局にいる「中村さん」。しかし中村も大きな悩みを抱えていた。そこにある事件が起こり……。
大人の入口に立った少女の繊細な心の成長を描いたこの作品の読みどころを、YA(ヤングアダルト)小説や児童文学の翻訳・紹介で活躍されている金原瑞人さんをお迎えして、作者の河原さんとともに語っていただきました。



●新人離れしたための部分

金原 とてもおもしろかったです。最初は普通の青春小説かなと思って読んでいたら、途中からいきなり「おや」という展開になっていく。そこまでは割と落ちついて読んでいたんですよ。ああ、こういう話だから、こういう内容の対談をすればいいのかなと思っていたら、三分の一を過ぎたあたりで、主人公のあさぎの同級生の千夏ちゃんがパフォーミング・アーツか何かの同好会をつくるというのが出てくるでしょう。あそこら辺がまずピクッとアンテナが動いたところなんです。
 そして、そのしばらく後で郵便局である事件が起こる。一体この話はどう進んでいくんだと、その辺から不安になってくると同時に、物語が一気に動き始める。読み終わって全体を振り返って気がついたんだけど、事件が起こるまでの部分がかなり長いでしょう。
河原 そうですね。
金原 それまでのかなり長い部分、我々は、よくための部分といいますけれども、ための部分がこんなにきっちり書かれているのは、新人賞の受賞作としては珍しいと思いましたね。あのための部分があってこその郵便局からの展開じゃないですか。ああいう構成は最初から考えていたんですか。
河原 大体の構成というか、プロットのようなものはありましたが、最初からきっちり書いていくというのではなく、どういうふうに進めていったらいいのかよくわからず、一歩一歩進んでいくやり方しかできなかったんです。
金原 いつごろから小説を書き始めたんですか。
河原 小学校から高校ぐらいまで、小説ではないんですけど、いろんな話を書いていたんですけれども、大学で文芸科に入って本格的に勉強し始めたら、その四年間でもう小説を書くのは絶対無理だと思って、卒業とほぼ同時にやめたんです。その後、普通に就職し、結婚してみたいな感じで、子供が大きくなったので、何か書いてみようかなと。
金原 何かきっかけは?
河原 何か始めたいと思っていたんですね。私、実は翻訳家になろうと思ったこともあったり、シナリオを書く勉強とか、いろいろやっていたんですね。でも結局やりたいのは小説かなということに気がついて、カルチャーセンターの小説講座に行くことにしたんです。
金原 それは何年ぐらい前なんですか。
河原 センターへ行ったのは二年半ぐらい前です。
金原 二年半ぐらいでこんなに書けるようになるのか。すごいなあ。
河原 これだけを書いていたんです。でも全然進まなくて、講師にはっぱをかけられながら書いていました。
(続きは本誌でお楽しみください)
【河原千恵子 著】
第22回小説すばる新人賞受賞作
『白い花と鳥たちの祈り』(単行本)
2月26日発売
定価1,575円
プロフィール
金原瑞人
かねはら・みずひと●翻訳家、法政大学教授。
1954年岡山県生まれ。訳書にロバート・ニュートン・ベック『豚の死なない日』、著書に『翻訳のさじかげん』等。
河原千恵子
かわはら・ちえこ●1962年東京都生まれ。「白い花と鳥たちの祈り」で第22回小説すばる新人賞を受賞。
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