本多孝好さんの『MOMENT』が刊行されてから七年。待望の続編『WILL』がいよいよ刊行されます。物語上でも七年の時間が経過し、登場人物たちのその後が気になるところ。まずは、続編を書かれたきっかけから本多さんにお伺いしました。
『MOMENT』から七年
――『MOMENT』は「ひとは人生の終わりに何を願うのか」を問いかける作品で、大きな反響を呼びました。今回『WILL』で『MOMENT』に登場した二十二歳の幼なじみの男女 ……神田と森野のその後を描こうと思われたのは、どういうお気持ちからだったのでしょうか。
実は『MOMENT』を書いた直後に受けたインタビューで「続編を書かれるんですよね」と聞かれて、「絶対書かないです」と答えまして。それに続けて「もし続編を書いたら、こいつネタが尽きたなと思って下さい」と言った記憶もあるので、とても気まずいんですけど(笑)。
――「絶対書かない」という言葉には、何か根拠があったのでしょうか。
もともと自分の小説に限らず、小説を読み終えたあとの世界は読者のものだと思っているんです。だから、続編を出すのはそこに作家がちょっかいを出すことのような気がして、あまり好きじゃなかった。もちろん、初めから続き物として書かれているのならいいんですけど、読者として「これはあとから思いつきで書いたんだよね」みたいに感じることもあったので。『MOMENT』の読者があの世界を気に入ってくれていたのならなおのこと、手を出しにくいなという感覚がありました。
――『WILL』をお書きになったのは、ご自分でも意外な心境の変化があったということでしょうか。
『MOMENT』が文庫になったあたりから続編を意識し始めたんですが、書きたいなという欲求がある一方で、当たり前ですが変なものは書けないなと。だから今回は続編というよりは、森野の物語を新たに書き始めようという意識が強かったですね。『WILL』は『MOMENT』の読者だけでなく、広く読んでいただきたいという思いもありましたし。通常小説を書くのと同じ書き方をしつつ、「このキャラクターには過去に読者がいるんだ」というプレッシャーを感じていました。
――「森野のこういう面をもっと書きたい」というお気持ちが、強くなられたんですね。
そうですね。『MOMENT』の中の森野という人物像は見えているようで見えていない部分があったし、彼女のキャラクターに対する愛着や葬儀屋という仕事への興味も、当然ありました。でも、それだけだったら多分書かなかったと思うんです。
『MOMENT』は死にゆく者の物語でした。死にゆく者に対して、神田が寄り添っていく物語。その後僕自身が歳を重ねたことや環境の変化によって、死にゆく者の心情以上に、死んだあとの情景が重くなってきたんです。『MOMENT』を書いた当時は、死というのは個人のものであって、自分が死ねばそれで終わりだと考えていました。でも今は、自分の生き死によりも考えなければならないことがたくさんある。例えば「あと一年であなたは死にます」と言われたら、その一年をどう生きようかではなく、「おれがいなくなったあと、子どもはどうするんだ」と考えますから。
――家族という大切なものを持たれたがゆえに、今までにない思いを実感されるようになったのでしょうか。
ひとりでいるときって、本当にシンプルなんですね。自分にとって大事なことは何なのかを考えて、世界を見渡せばいいんですが、家族 ――特に子どもの存在があると、自分ひとりを中心に置いて世界を眺めていては、行き詰まってしまう。自分とはずれたところにもうひとつ中心を置いて、別の視点を持って世界を見回さないと、落ち着くべきものも落ち着かないという感覚はありますね。
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(続きは本誌でお楽しみください) |
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【本多孝好 著】 |
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『WILL』(単行本)
10月5日発売
定価1,680円
詳しいお知らせは、本誌ウラ表紙をご覧ください。
次号に本多孝好さんの読切小説が掲載される予定です。 |
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『MOMENT』
〈あらすじ〉
病院で清掃のバイトをする二十二歳の男子大学生、神田。その病院に出入りする神田の同級生で家業の葬儀屋を継ぐ女社長、森野。この二人が出入りする病院を舞台にした連作短編集。
神田がある末期患者の願いを叶えたことから、彼のもとには患者たちの最後の願いが寄せられるようになる。恋心、家族への愛、死に対する恐怖、そして癒えることのない深い悲しみ。願いに込められた命の真実に彼の心は揺れ動く。ひとは人生の終りに誰を想い、何を願うのか ――。
(単行本)
定価1,680円
(集英社文庫)
定価560円
好評発売中 |
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本多孝好
ほんだ・たかよし●作家。
1971年東京都生まれ。「眠りの海」で小説推理新人賞受賞。著書に『MISSING』『ALONE TOGETHER』『FINE DAYS』『MOMENT』『正義のミカタ』『チェーン・ポイズン』等。 |
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