青春と読書
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特集◆いま、歴史時代小説が熱い!
対談 なぜ世代を超えて熱く共感するのか? 北方謙三×武田双雲
快調に連載が続く『楊令伝』も今月刊行の「坡陀(はだ)の章」で十巻目を迎えます。今号では『楊令伝』の題字と文庫版『水滸伝』の扉に登場人物名を揮毫(きごう)されている書道家の武田双雲さんをゲストにお迎えし、『水滸伝』『楊令伝』の世界を語っていただきました。


●団塊vs.団塊ジュニア

北方 『楊令伝』の第一巻が出るときに、編集者から「楊令伝」はこんな題字になりますって見せてもらったんだけど、ああ、強くてすごくいい字だなと思いましたね。
武田 強い字だといっていただいてうれしいです。ぼくらの世代というのは、いつも上からたたかれて、抑えられて、怒られてきたので、『水滸伝』に出てくるような男たちの熱い血潮というのにすごく憧れて、何とかそこに迫ろうというのがありましたから。ぼくらから見ると、北方さんたちの伸び伸び感というのは、ある意味ずるいですよね。
北方 伸び伸び感って、どういうこと?
武田 遠慮せずに思いっきりやるっていうんですか。だから、ぼくも題字を書くときには、もう思いっきり書くしかないと思って。
北方さんは団塊の世代のど真ん中ですよね。
北方 昭和二十二年生まれですからね。
戦争に行ってた人が復員してきたのが二十年、二十一年でしょう。それで二十二年頃から子どもが大量に生まれてくる。
武田 団塊の世代というのは、何であんなにエネルギーがあるんでしょう。
北方 人数が固まってるだけですよ。
武田 でも、あのエネルギーは多いだけじゃ説明できないですよね。やはり、時代ってことですか。
北方 ぼくらの幼い頃は戦後すぐで、都会はまだ焼け跡ばかりで殺伐としていたし、田舎は食い物はあったけど、ほんとにど田舎って感じだったわけですよ。それに、アメリカ人に対するコンプレックスだけは大人から注ぎ込まれるという状態でね。
武田 劣等感によるパワーもでかいってことですか。
北方 でかいでしょう。それから、人数が急に増えてしまったがために、遊び場一つ獲得するのにも、つねに戦わなきゃいけなかった。
武田 ぼくは昭和五十年の生まれで、団塊ジュニアの世代っていわれてるんです。まさにぼくらの親たちの多くが団塊の世代で、親たちの話を聞いていると、ふつうのサラリーマンでも結構激動の時代をくぐり抜けていたり、おもしろい話があるんですけど、ぼくらの世代は激動がないから、あまりおもしろい話もない。インターネットカフェでどうしたとか、自殺の話とか、何か暗ーい、陰のほうに行く話ばかりなんですよね。
北方 今の若い人たちは連帯なんて信じていないでしょう。ぼくらは連帯の可能性を信じていたようなところがあるんだよね。
我々は六〇年代後半に学生運動をやったわけだけど、直近の五九年にキューバ革命が起きてるんです。キューバ島に上陸したチェ・ゲバラやカストロたちは多くの仲間を失いながらも、生き残ったわずか十数人がジャングルにこもって仲間を少しずつ集めてゲリラ戦を闘う。そしてついにはバティスタ政権を倒した。バティスタ政権というのはアメリカの傀儡(かいらい)だから、つまりはアメリカを倒したということになる。目の前にアメリカに勝った革命の国というのがある。だから、おれたちも革命ができるんだ、可能性として革命があり得るということを信じられたわけです。
武田 ぼくらは、革命っていわれても全然イメージが湧かないですね。
北方 今は革命ということ自体、リアリティをもたないけど、我々のときは、キューバ革命があったからものすごいリアルなんだよ。
武田 世代の違いって大きいと思います。
ぼくの教室には三百人くらいの生徒さんがいて、大体全世代揃っているんですけど、世代の差って歴然とありますね。たとえば、おとなしく見える方でも、四十代後半から五十代の方は、デパートへ行ったらそこにあるもの全部買い取りたくなるとかいう。ぼくらの世代になると、そんなに欲しいものないんですよね。庭つき一戸建てとかまったく興味ないし、車が欲しいと思ったこともないし。欲しいものがあまりなくて、何が欲しいんだろうって探しちゃうんです。
同じ時代に生きていて、何でこんなに違う人種みたいになってるんですかね。何が違うのかなあ。
北方 安保を粉砕せよでもいいし、東大をぶっつぶせでもいいし、目的に向かって自分の熱さみたいなものがちゃんと方向性をもてたということはあるよね。それは、きっと時代がくれたんでしょうね。
武田 高揚感ですか。
北方 高揚感なんてものじゃなくて、突撃感だね。おれはここで死んでもいいぞ、という。
武田 どれだけ話を聞いても、ぼくらは体験してないので、何かを改革しようという感覚がわからないんです。でもそれを知りたいというのも強くあるんですよ。
今の三十代、四十代は、何かが起こっても革命を起こしてやろうなんてことはまったく思わないですね。パラダイムが違うというか、みんなで何かをしようということを、まず考えない。どんどん、どんどん、個人主義になっている気がする。
北方 そういう個人主義って、組織のなかに入ると弱いんだよね。団塊というのは、組織のいいところも悪いところも知り尽くしている。だから、下から能力のあるやつがのし上がってきそうになってきたら、ガンと踏みつけてやる(笑)。
武田 リアルな話ですね。
北方 こういう状況があと十年はつづくと思うな。
(続きは本誌でお楽しみください)
プロフィール
武田双雲
たけだ・そううん●書道家。
1975年熊本県生まれ。3歳から母である書家武田双葉氏に教えを受ける。NHK大河ドラマ「天地人」や愛・地球博メインパビリオンの題字を揮毫。著書に『ひらく言葉』『書の道を行こう』等。
北方謙三
きたかた・けんぞう●作家。
1947年佐賀県生まれ。81年『弔鐘はるかなり』でデビュー。著書に『眠りなき夜』(吉川英治文学新人賞)『破軍の星』(柴田錬三郎賞)『楊家将』(吉川英治文学賞)『水滸伝』(司馬遼太郎賞)等。
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